保育料を引き上げる理由(4)

川崎市保育料66.4%→75%の本当の意味

2011年9月から半年にわたって「川崎市保育サービス利用のあり方検討委員会」に財政と社会保障の学識経験者として参加してきた。その報告書は要旨をつけて12月12日に記者クラブに配付された。
「保育サービス利用における受益と負担の適正化の検討の方向性について」[PDF]

保育料を引き上げる理由(1)~(3)までで、各種保育所が生まれていること、そして待機児童だけが問題なわけではなくて、認可保育所に入れるかどうかが新たな格差を生んでいることが理解してもらえただろう。川崎市で、なぜ今になって保育料を引き上げなければならないのか、記者発表要旨からかいつまんで説明したい。

はじめに
本市の認可保育所の保育料は、国が示す「保育所徴収金(保育料)基準額表」(所得階層
区分8階層)に対して、より負担の適正化を図るため、本市独自に「川崎市保育料金額
表」(所得階層区分26階層)を定めており、この国の基準に対して、本市では、利用者
の負担割合を軽減(平均66.4%)しながら、保育サービスの提供に努めている。

これは典型的な行政側の事情説明なので、一読してわかる一般市民がいたら褒めてあげたい。
国8階層→川崎市26階層」というのは、国の基準よりも川崎市の基準の方が細分化されている、と言っている。階層を細かくすることで、所得が増えて上の階層に移った場合にも、保育料自己負担額の増額幅が少しずつになるよう配慮されている。

[認可]保育所の運営経費と[国、川崎市、利用者間の]負担割合について図解すると次のようになる。
川崎市保育運営経費

つまり「66.4%」という数字は、国の基準で示される利用者負担に対して川崎市が軽減している負担割合の平均を示している。ただ、平均は平均に過ぎないので、保育料自己負担額が無料になる利用者(生活保護受給者等)から国の基準そのまま100%を負担する利用者までいることに注意が必要だ。つまり「66.4%」という数字は平均ど真ん中にいる利用者以外はあまり意味を持たない数字である。今回の検討委員会報告では、国の基準に対して「75%」程度まで川崎市独自の軽減率を弱めることに賛成している。この数字についても、保育料自己負担額の総額に対しては意味があるが、個々の利用者にとっては意味のない数字だ。

個々の利用者にとって関心があるのは、自分の保育料自己負担額がどの程度増えるのか?という点だろう。川崎市の行政の都合による記者発表資料で分かった気になったマスコミは「平均○○○○円引き上げ」といった書きぶりの記事を掲載している。しかしながら、個別の所得階層の増額分は2月の市議会を待たなければ判明しないし、個々の利用者が次年度どこの所得階層に入るのか、所得変動や階層区分の変更で個別的にしか判断できない。平均額では自分の増額分はわからない。そもそも、上の図でもわかるように川崎市では認可保育所の運営に「超過負担」の名の下に上乗せ経費を支出している。人件費であったり、都市部の高い経費を賄う意味もある。保育料引き上げと言っても、対象となる経費の一部分の軽減分を弱める程度に過ぎない。

なお、上の図で示される保育所運営経費には認可外保育所(かわさき認定保育園、その他補助金付き保育所)の予算は一切含まれていない。あくまでも川崎市直営、社会福祉法人立、そして民間委託の認可保育所のみに限られている予算である。認可保育所の保育料自己負担額が引き上げられたとしても、平均的な世帯収入の家庭ではまだ認可外保育所の利用者との自己負担格差は解消しないのである。一方で、世帯収入が1000万円を超えるような家庭では、3歳未満児に限って言えば認可保育所を目指す経済的合理性は無くすことができた。高額所得世帯は認可保育所を使うべきではないとまでは言わないが、より所得の少ない世帯に認可保育所の定員枠をゆずってもらえる条件ができたと考えている。