岩波書店コネ採用明記を擁護してみる

岩波書店の採用情報で応募資格に社員または著者の紹介が必要との注記があり、コネ採用を明記しているレアケースとして話題になっている。わざわざ小宮山厚生労働大臣にまでコメントをとったマスコミがいて、関心を寄せているとの発言を引き出している。

http://www.iwanami.co.jp/company/index_s.html

もともと出版業界は就職希望者と採用人数とのバランスがとれていないことが知られている。中でも岩波書店は最難関と目されている。未だに書店に買い取りを要求できる出版社などそう多くはない。例年、若干名採用が行われているらしいが、すさまじい選考倍率になっていることは想像できる。選考にかける手間暇を考えると、何らかの方法で絞り込みをかけたいし、内定を出した学生に逃げられたくない、というのはどの企業でも事情は同じだろう。岩波書店は、社員または著者の紹介というコネ採用を絞り込みの方法として採用したわけだ。

マスコミの論調は、コネ採用はけしからん、公明正大に門戸を開くべきだ、と一方的だ。採用選考にかかわる個別事情には知らんぷりで、正論さえ言っていれば良いのだろうか。

さて、岩波書店の提示した応募資格が公明正大に門戸を開かないものなのか、検証してみたい。まず、社員や著者が身内だった場合、採用面接ではこんな間抜けなやりとりが展開されるであろう。

「紹介者とあなたの関係を説明してください。」
「あ、叔父です。」
「はぁ、そうですか……」

うがった見方をするならば、これだけソーシャルネットワークが発達した世の中で社員や著者にたどり着けない学生がいるわけはなく、このような応募資格を提示することでネットワーク活用力を見ているのだ、とも考えられる。つまり、岩波書店にどうしても入社したい学生がいたとき、岩波新書を出していたりする大学教授が近くに誰かいるはずで、事情を説明して紹介状を書いてもらうまでのプロセスはネットワーキングに他ならない。出版社に入社して、編集者なり営業担当になったとき、ネットワーク活用力は重要な能力として評価されることになる。

また、採用選考プロセスでレファレンスが欲しい、内定学生に逃げられないようにする保障が欲しい、といった動機も採用側にはある。調子の良いことを面接では言ってるが、本当の姿はどうなのか、確認できる相手がレファレンスである。また、紹介状をもらっている手前、内定辞退しにくくなることも、世の中のコネ入社では当然である。

ということで、意外にコネ採用明記は合理的かつ十分に公明正大なのではないかと考え、岩波書店を擁護してみた。就職活動なんて正解は無いのだから、コネでも色目でも使えるものは何でも使えば良い。結果的に内定がとれれば、それが正解だ。