水道民営化を考える

成立が見込まれる改正水道法は、民営化が議論となっています。料金が何倍にも引き上げられてしまう、再公営化した事例も世界各国に多い、再公営化したときには違約金を取られるので世界の水ビジネスは料金+違約金でもうけている、などといった反対論が目立ちます。では、公営のままの水道が維持可能でしょうか?公営なら料金値上げは起こらないのでしょうか?

日経新聞は編集委員による論説を掲載していて、反対論に根拠が薄いことや、「水道民営化法案」といったレッテル貼りは過剰反応であって、漸進的な取り組みに過ぎないことを主張しています。


野党などからは「企業に任せると営利主義に走り、料金高騰や水質の低下につながる」「諸外国では民営化の失敗が相次ぎ、再公営化が大きな流れになっている」といった意見が出ている。これは果たして本当だろうか。

(中略)

すでに浄水場の運営委託など水道事業の一部を「民」に委ねることは、かなりの自治体が実施済みだ。今回の法改正はそれほど劇的なものではなく、従来の流れを一歩前に進めるものと理解したい。


日本経済新聞(2018/12/6)水道コンセッションへの期待 料金上昇の抑止力に

野党系の政治家の方は、経済学者の意見だとして「水道民営化が失敗する本当の理由」をブログ記事にしています。

(前略)

まず、主流派の経済学においては、世の中には「民営化すると良くなる業種と、悪くなる業種がある」と考えられています。民営化に適さない業種の条件は幾つかあり、そのうちのひとつが「自然独占」です。これは「初期投資が大きくて、規模が大きくなるとコストが下がる」業種のことで、規制をしなくても自然に独占状態になってしまいます。

(中略)

また、「生活必需性が高く、価格弾力性が低い」場合も民営化すべきではない、とも考えられています。平たく言うと、「生活必需品だから買い控えできないため、値上がりしても買うしかない。そのため、企業に任せておくとどんどん値上がりしてしまう」ということです。

宮崎タケシ(2018年12月05日)水道民営化が失敗する本当の理由

経済学者にいろいろあって……。というのは脇に置いたとしても、では電話。電力、ガスは公営化しなくてもやっていけていますよね?上限価格規制という政府の介入に加えて、電力では小売り自由化までやって競争を促しています。簡単に反証できることを水道公営維持の論拠にするのはマズいです。

そもそも水道事業とはどのくらいの事業規模(市場規模?)なのかを、私が地方財政学の講義で使っているスライドから抜き出してきました。

2016(平成28)年度決算における地方公営企業実態(筆者編集)

水道は約4兆円、下水道は約5.5兆円です。現在の給水人口は人口カバー率99.6%にも達しています。民営化を考えなければならない、社会経済的条件で最も大きなものは「人口減少」です。1億3千万人近くまで膨れあがった日本人口が減少し始めていて、これから加速していきます。

2006年の北海道夕張市の財政破綻から、総務省は全国地方自治体の財政に目を光らせて健全化を求めてきました。削れる公共事業を削りまくった結果として、地元土建業者がつぶれまくり、冬季の除雪作業を委託できる先が無くなったところもあります。高齢化によって扶助費(生活保護)は増える一方なので、財政支出の削り代は地方公務員人件費しかありません。職員全員の給与20%一律カットなどできませんから、退職者補充しないような形で人員削減を進めてきました。おかげで、役所窓口のほとんどが時給で働く非正規職員にとって代わられました。また、指定管理者制度など公共施設運営の民間委託は進んできています。それがようやく水道事業にまでたどり着いたというのが今回の改正水道法です。

初めて民営化できるようになったのではなく、民営化することを後押しするインセンティブをつけるのが改正の趣旨です。全国のインフラの改修・廃止は共通の課題として認識されています。橋梁が崩壊したり、水道管が破損したり、道路が陥没するといったインフラ崩壊は目の前の危機です。公営だろうが民営だろうが、時間の経過の問題ですから、いずれにせよ対応は迫られています。地方自治体も人件費を削ってきた結果、水道事業に割けるだけの人材は余っていません。地方公務員の業務自体が企画・発注・指導監査にシフトして、自ら事業を手がける状況では無いのです。

もし、民営化によって水道料金が値上げされたとしても、水道インフラの更新時期に来ていて設備投資がされたのであれば応分の費用分担と考えるべきです。単に民営化だけで値上げになるなら、地方自治体の契約方法の瑕疵です。モニタリングと併せて上限価格規制なども契約に盛り込むべきです。

民営化になると国際的な水道事業会社が日本に乗り込んでくる黒船イメージを持っている人が多いように見受けられます。日本には心強い水道インフラ供給者があります。

「東京都水道局」です。

国際展開

 世界では、その地域や国ごとに水に関する様々な課題を抱え、およそ7億人もの人々が安全な飲み水を得ることができないと言われています。 
 また、途上国では、人口の増加に対応した水道施設の建設ができなかったり、漏水など無収水を削減するための対策ができないなどの課題があります。
 水道局は、これまで世界各国からの要請を受けて、長年にわたり、研修の受入や職員の海外派遣などを行ってきました。また、海外事業者向けホームページや国際会議などにおいて、優れた技術やノウハウを世界へ発信してきました。
 近年では、こうした取組に加え、局所管の監理団体であり、局と連携して水道施設の運営・管理業務を実施している東京水道サービス株式会社(TSS)、その子会社である東京水道インターナショナル株式会社(TWI)を活用しながら、公的機関、民間企業等と連携して、国際展開の取組を進めています。

https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suidojigyo/kokusai/

日本国内でも是非、東京都の枠を超えて民営化受託事業者として名乗りを上げてもらいたいものです。