孫崎享『不愉快な現実』

サブタイトルに「中国の大国化、米国の戦略転換/尖閣、竹島……真の国益を考える」とつけられています。筆者は外務省官僚として各国で外交官を務め、最後には防衛大学教授でキャリアを終えるという、理論派の元外交官です。帯には尖閣諸島をなめるようにして飛行する航空自衛隊機が映っていて、平積みにされている書店では手に取ってしまう仕掛けがあります。タイトルは、ゴアの『不都合な真実』をうまくもじったなぁと。名前が難読ですが、享(うける)氏と読みます。

要点から言えば、日米の相互理解がずれてきてしまっていて、日本人よ周囲を見渡して現実認識を改めよというメッセージがちりばめられています。尖閣諸島を奪おうとする中国の艦船なんて米軍と自衛隊が力を合わせて追い払ってしまえ、などというエセ国粋主義者の論には与しない立場を鮮明にされています。

鍵となるのは、中国は米国を抜いて世界一の経済大国になるとの予測と、そうなったときに日本は中国とどうやってつきあうのか?という現実認識とその対応の話が一つあります。もう一つは、米国は決して日本の味方ではありませんよ、国益とは何かを国内勢力のせめぎ合いから折り合いをつけて是々非々で来るのが米国だという現実認識の提示です。

このままでは米国対中国の最前線に日本の自衛隊が置かれ、武力衝突があった日には米軍にはしごを外される恐れまで指摘しています。あくまでも日米安保条約の対象は日本の管轄権がある領土に限られているので、中国に占領されてしまった島の奪還までは米軍の責任ではないというわけです。これは尖閣諸島に限らず、石垣島、宮古島などにも当てはまる話です。

ここから発展して考えると、米国は必ずしも沖縄に米軍基地を置いておく理由は無くなってきます。駐留経費を日本が負担してくれるという財政的利点はありますが、例えば沖縄にいた海兵隊をグアムに移して、その費用を日本が負担してくれるなら同じことです。中国のミサイル配備が進んでくれば、沖縄よりも少しでも距離を稼げるグアムの方がましという考え方もあります。普天間の辺野古移転が頓挫した後には沖縄から米軍基地が無くなる将来も想定できます。これは沖縄県民が望んでいる基地の無い島とはほど遠い、緊張感あふれる事態になっていることでしょう。

筆者は、領土問題をナショナリズムに任せるのではなく、適切に管理(長期間の棚上げ)すること、日本人が現実認識に目覚めることを処方箋として示します。国際問題について耳をふさぎ目を閉じた状態の、情報鎖国状態の日本をメディアから何とかしなければと思わされます。