就職活動が学生の免罪符になるという誤解

辻太一郎氏がダイヤモンドオンラインで発表した記事は、大きな誤解が含まれており、大学教員として違和感を覚えてしまう。

「「就活だから」が大学教授、学生の免罪符に誰でも簡単に単位が取れる秋学期試験の実態」
http://diamond.jp/articles/-/30886

DSC_0088「秋学期は春学期よりも単位が取りやすくなっていた!?」という小見出しの一部、たとえば、会社説明会やセミナーへの出席によって研究会に出席できない学生がいるのは経験的にも同意できる。しかし、就職活動開始時期の早期化に対して大学側が手をこまねいていたわけではない。マンモス大学の多くは、三年生からゼミを始めざるを得ない。少人数教育の対応に手が回らないからである。小規模大学の多くは、二年生からのゼミを設置している。就職活動が始まる前の1年半で大学で学ぶということについて結果を出させようと考えているからである。3年生からゼミを始めれば、半年ちょっとで就職活動に突入することになる。これは、大学で学んだことを語るには短すぎる期間だ。2年生からゼミを始めれば、就職活動をインターバルと考え、4年生の後半では卒業研究までたどり着くことができる。

この記事における最大の誤解は、 「一度、単位取得が厳しいという噂が立ってしまうと、来年以降の履修者が激減するのは容易に想定できます。ならば、楽な授業であると噂をたててもらって1人でも多くの履修者に来てもらった方が教授としても嬉しいものです。そのため評価方法を甘くしているのです。」というくだりである。辻氏は、取材した学生の希望的観測に基づいて発言されたものを根拠にして大学教員には人気取りをしたいインセンティブがあると見なしている。残念ながらその見方は私や周囲の教員たちからは支持されない。

大学教員として果たさなければいけない教育ノルマは、ほとんどの大学で週何コマというふうに表現されている。例えば私が勤務する嘉悦大学では専任教員のノルマは週6コマである。これは1週間に6科目を担当するという意味である。コマという単位に履修者数は勘案されないことがほとんどである。つまり、一年生向けの基礎科目で300人を教えなければならないということであっても1コマであり、発展的な専門科目で履修登録は5人であっても1コマと数える。300人分の試験やレポートを採点するというのは、2日3日では終わらない作業である。一方、5人分の採点など時間もあれば足りる作業である。わざわざ学生の人気取りをして大学内でも名声を高めようなどとは、まず考えない。大学教員1人だけでも取材をしておけば、避けられた誤解だと考える。

辻氏の問題関心、就職活動と大学教育という視点は重要である。日本の大学というステレオタイプのくくりに陥るのでは無く、規模もカリキュラムも多様化している現状を把握し、就職活動に適応した上で学業を成就させようとしている大学が生まれていることにも目を向けるべきだ。大学は古色蒼然の中にあるわけではなく、進化し続けている。