外国人材活用への期待が失望に変わるとき

自民党など与党が臨時国会で成立を目指している入管法改正案「外国人材活用法案」は、自民党の地方組織の突き上げで進んでいるとの見方があります。もし来年度から在留資格「特定技能」が認められるにしても、肝心の地方には外国人材が定着しない懸念があります。

12月2日(日)に開催された公共選択学会プレナリーセッションに、八代尚宏・昭和女子大学特命教授が登壇しました。その中で、外国人労働者の活用について「同一労働同一賃金」の原則が守られるべきだとの講演をされました。八代教授は、11月22日の衆院法務委員会の参考人聴取で同趣旨を述べた上で、拙速だから辞めろというともっと悪い制度に戻るだけとしています。

平沢勝栄 俺がやらねば「入管法改正案」が衆院通過 外国人との共生社会実現へ…社会保障制度の“適正運用”検討が急務


(外国人の)伸びの大きかった都道府県順に見ると、熊本(16.5%増)、鹿児島(14.4%増)、宮崎(13.4%増)、島根(12.9%増)、富山(12.6%増)、北海道(12.3%増)、青森(12.1%増)などとなった。

磯山 友幸(2018年4月6日)地方の人手不足で「外国人頼み」が強まる 早急な「移民政策」立案が不可欠に


与党内には来夏の参院選に向け、人手不足の業界の支持を期待する声がある。一方で、受け入れの上限が決まっていないことなどに対して慎重論も根強い。自民党の部会では「中国から労働力が補われるようになると中国が労働力のカギを握る」と中国を警戒する声も出た。

産経新聞(2018.11.3)安倍政権、人手不足背景に受け入れへ 外国人労働者 保守派に根強い懸念

同一労働同一賃金というのは、これまで正社員と非正規労働者との格差として語られることが多かった問題です。同じような仕事をしているのに正社員だけ各種手当てやボーナスなどがあって、パートや契約社員は低待遇になっているという議論です。これを日本人と外国人の労働者間で考えようという問題提起です。

既に外国人技能実習制度においても、日本人と同等の待遇確保を求めています。これは曖昧な表現なので、様々な解釈があり得ます。例えば、最低賃金の時給以上であれば日本人と同等と言えるのでは無いか、実習生は研修中という扱いなのだから、正社員とは違う給与体系で良いのでは無いか、といった解釈です。同一労働同一賃金というルールを徹底するならば、日本人と同じ給与体系に位置付ける必要があり、未経験の高校新卒社員程度の待遇は確保せざるを得ません。

東京都の2018年10月現在の最低賃金は時給985円です。来年には1000円の大台にのせるでしょう。全国最低は鹿児島県の時給761円です。日本人と外国人の同一賃金を実現したとしても、最低賃金の地域格差は残ります。しかも、最低賃金ワーストに出てくる県では最低賃金法違反の摘発があるのに対して、東京都の場合は10円単位で最低時給から切り上げるのが通例ですし、人手不足を解消しようとする雇用主ははるかに高い時給で募集することが常です。

外国人材の本音を探れば、一定期間により多く稼いで母国に送金したいという思いがあります。これは送り出し機関や仲介機関に借金を負わされるとか、そういった事情の有無にかかわらず当てはまります。もちろん日本のアニメが好きだったからという個人的な理由を抱いていることもありますが、経済的理由が第一です。だからこそ、しっかり稼げる日本が大事なのです。

客観的に見て、よほど選択肢を与えられなかったか、強制的に割り当てられたので無ければ、都市部で働く方が実入りが良いし、外国人労働者にとっても魅力的な環境があります。地方の期待を背負って成立するはずの「外国人材活用法案」は、ふたを開けてみたら都市部に集中してしまったという結果に終わり、与党支持者たちをがっかりさせてしまうかもしれません。