人口動態統計で新型コロナ関連死亡の影響を探る(2020 May)

人口動態統計速報は、調査月の2か月後に公表される。令和2年5月分は7月28日に公表された。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2020/05.html

3月頃、海外メディアの報じる「超過死亡」が注目された。新型コロナと診断されていない死亡が隠れているのではないかとの懸念だった。日本では人口動態統計を見る限り、その兆候は見られない。「超過死亡」どころか「超過生存」だという記事を書いた。

令和2年5月分についても、死亡数は前年同月比で減少している。婚姻件数については、昨年5月が令和婚だった反動なので減少やむなしである。離婚件数については激減で質的な変化を感じる。ただ、平成30年4月は平成末離婚とも呼ぶべき離婚件数の多さだったので、手続きが長引いたところは5月まで引きずっていたので前年同月比で減少幅が大きくなったのかもしれない。

新型コロナ関連死亡に話を戻そう。今回の死亡数と「当月を含む過去1年間の自然増減数」に着目してみる。比較対象として、令和元年12月分の人口動態統計月報(概数)を並べて作図してみた。

速報(令和2年5月分)と https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/m2019/12.html

右上の月報(令和元年12月分)の死亡数は、実線で描かれたのが令和元年分、点線が平成30年分である。概ね実線が点線よりも上を推移しているのが分かる。人口減少社会であるため、当然のトレンドを示している。右下の「当月を含む過去1年間の自然増減数」は、12か月の合計で見ているため右下がりのトレンドを示す。そして前年よりも下に位置して描かれていることがわかる。

左下の令和2年の「当月を含む過去1年間の自然増減数」を示す赤い線を見てほしい。横ばいを継続している。これはとても不気味である。2月頃から季節性インフルエンザの流行が収束したり、学校閉鎖のためか子どもたちに流行る手足口病が減少したり、様々な感染症が抑制されている。高齢者福祉施設では外部訪問をシャットダウンして感染防護に務めている。

このように人口減少トレンドが妨げられた場合、このまま生き残って長寿化が進むシナリオと、どこかで帳尻を合わせるような大量死亡が発生するシナリオが考えられる。単に長寿化が喜べるわけではない。その代償として、我々は経済自粛により休業・廃業・失業といった経済的なデメリットを被っているし、子どもたちや学生は意に沿わない学校休業やオンライン授業という対応を迫られている。

医療の専門家からは経済学者に対して、感染防護しながらどこまで経済のアクセル・ブレーキを調節できるかの提案を求められている。しかしながら、従来通りを100%・ロックダウンを0%と置いたスケールのどこにでも解はある。結局のところ、高齢者を何人まで死なせても構わないかという政治的決断と組み合わせなければ解は定まらない。例年通りの人口減少トレンドまでなら許されるのだろうか?