保育料を引き上げる理由(2)

保育所にもいろいろあって、利用者負担もいろいろある

日本全国の保育所定員を合計すると、待機児童と入所児童の合計を上回ると聞けば、不思議に思われるだろう。保育所に入れない子どもが何万人もいると政府やマスコミが言うからだ。もちろん都市部の保育所は満杯で、地方の保育所はがらがらといった格差があって、結果的に待機児童が発生している。首都圏に住んでいる人が、いくら長野県で空いている保育所があったとしても利用できないからだ。

そもそも「待機児童」は、認可保育所に入所申請をしているが入所決定されない児童を言う。ちょっと想像してみると、育児休業から復職しようとしたときに待機児童になってしまえば職場に戻れず家庭内で子どもの世話をしながら保育所の空きが出るのを心待ちにする母親(父親でも可)がいるのだろうか?そのようなケースもあるだろうが、フルタイムで働いていた人ならば復職時期をころころ変えられるわけもなく、別の保育所に預けることになる。それらを認可外保育所と呼ぶ。

待機児童は4月時点が最小で3月末が最大になる。4月1日で入所決定されるからだ。でも、政府が全国集計しているのは4月と10月の2時点のみ。3月末の段階で公表している市町村なんて聞いたことがない。確実に増加している10月ではなく4月時点の待機児童数を基準に考える市町村が多い。川崎市では毎年1000人前後の待機児童を発生させていたので、今後3年間で60カ所程度の保育所開設を予定している。都市部の市町村の多くがこんな状況だ。

さて、待機児童の多くが入所する認可外保育所だが、自治体からの補助金付きのところと補助金無しのところがある。東京都だと認証保育所、川崎市だと認定保育園、横浜市だと横浜保育室といった名称だ。これらの特長としては、施設の基準が認可保育所とほぼ同等で、部屋の広さや保育士の配置で引けを取らない。利用者負担のところだけは違って、所得に関係なく月額4~6万円程度の費用が発生する。補助金無しのところだと10万円を超えるケースもあるようだが、24時間保育など特殊ニーズに応えている面もある。

認可保育所では、お財布の中身をのぞき込んでから利用者負担が決まる仕組みをとっている。同じように子どもを預けていたとしても、低所得のシングルマザーだと無料、フルタイム共働きで十分な世帯収入があると6万円といった具合だ。ちょっとレストランで食事をしたとき、レジでお財布の中身を改められてお会計が決まる、なんてことはありえないが、認可保育所では常識とされる。少し前までは社会福祉全般の常識だった応能負担という、払える人に払ってもらう仕組みだ。老人福祉に関しては、介護保険ができてから応益負担という使った分だけ払うという仕組みに改められた。世間の常識と同じになった。

なお、月額6万円の利用者負担が請求されるとき、保育にかかっている費用全額が請求されているわけではない。例えば、0歳児の保育ではベテランの公務員保育士(年収800万円)が1対3で配置される。様々な施設経費などを加算すれば月額30~50万円程度の保育費用となる。23区の一つではかつて月額80万円かけていたこともある。つまり、高額所得者ですら、認可保育所を利用するときには多大な税投入による支援を受けることになる。

参考までに保育所のいろいろを並べてみた。

  • 認可保育所(自治体直営)
  • 認可保育所(社会福祉法人立)
  • 認可保育所(株式会社へ運営委託、社会福祉法人へ運営委託)
  • 認可外保育所(補助金付き)……待機児童に悩む都市部のみ
  • 認可外保育所(補助金無し)……24時間保育など特殊ニーズ
  • 家庭保育福祉員(保育ママ)……3才未満の子を自宅などで預かる
  • ファミリーサポート……有償ボランティアの一種で短時間一時利用

認可保育所は自治体直営だと公務員の人件費の高さがネックとなって高コストになり、社会福祉法人、株式会社の順で運営費用が安くなっていく傾向にある。ただし、認可保育所であれば運営主体がどこであれ、所得に応じた利用者負担額になる。自治体直営以外の保育所しか今後は新設されないだろうが、それによって一カ所あたりの運営経費を削減しながら総額の伸びを抑制している。

次年度からの川崎市保育料見直しでは、世帯年収で1000万円以上の世帯で3才未満の子どもを保育所に預けたい利用者がいた場合、経済合理性だけで判断するならば、認可外保育所(補助金付き)に預けた方が利用者負担額は安くなる設定にしてある。つまり、わざわざ待機児童にならないインセンティブを設定したのだ。しかし、宣伝下手の行政の手にかかるときちんと伝わるか、少々不安だ。