保育料を引き上げる理由(3)

北欧に学ぶ待機児童の解決法

首都圏での待機児童数は毎年減っていないように見える。でも、認可保育所の定員数は増加しているし、自治体補助金付きの認可外保育所も増えている。いわば「動的均衡」と呼べるような状況で、新規開設した保育所に入所が決定された子ども数を上回る新しい入所申請者が現れるから待機児童数が減らない。

川崎市では今後3年間に60カ所の保育所を開設する計画をもっており、待機児童数ワーストランキング上位の汚名を挽回しようと努力している。前回書いたように、保育所の運営形態は自治体直営よりも民間委託が主となり、運営経費を軽減できるような方法をとっている。しかし、保育所数では純増であるため、保育所運営経費総額では毎年増えている。財政の健全性を維持するためにも借金を増やすわけにも行かず、福祉に使われる民生費が増えた分、公共事業などその他の項目で予算が減らされている。結果として、その業界の雇用が失われている。

お隣の横浜市は、待機児童数を減らすための別の手段をとっていると言われる。待機児童はどこにいるのか?というシリーズ初回の疑問をそのまま調査して、認可保育所への申請を出し続けるかどうかを問い合わせる作戦だ。待機児童になって認可外保育所に預けてみたらことのほか便利なことに気づいた利用者の中には、認可保育所への入所希望がなくなることがある。例えば世帯収入が1千万円を超えるような場合、3歳未満の保育料自己負担額は認可外保育所の方が安くなる場合がある。また、認可外保育所の方が施設が充実していたり、イベントなども盛りだくさんで、親子共々気に入ってしまうこともある。そういった待機児童を見つけ出しては入所申請を取り下げさせることで待機児童数を減らすことができる。横浜市では地域によって保育所ニーズがまちまちで、区によっては定員の空きすらある状況が川崎市とは異なる点である。

いずれの場合にも、国が定める待機児童の定義「認可保育所に入所申請したが入所決定されない状態」の画一的なあてはめによって、実情が無視されている。川崎市は国の基準に沿って認可保育所を増やすことで数字を改善しようとしているし、横浜市は国の基準に該当する子どもを減らすことで数字を改善しようとしている。マスコミの中には、認可外保育所にいて認可保育所への入所申請を取り下げさせられたことで「隠れ待機児童」がいるなどと殊更問題化しようという向きもあるが、的外れもいいところだ。

さて、今回の本題だが、待機児童の現状を見ると3歳未満、特に0歳児(4月1日時点で0歳、その後1年以内に1歳)の待機児童数が多いことについて、スウェーデンの解決法は参考になる。スウェーデンの育児休業制度は、出産10日前から子どもの8歳の誕生日までに、両親合わせて最大で480労働日を取得することができる。当初390日間の休業補償は80%となっている。つまり0歳保育は無く、1歳以上保育になる。日本で0歳児の待機児童数が多い理由はいくつかある。一つは職員配置基準ゆえに定員が少ないこと、もう一つは1歳児の欠員募集が競争的であるため0歳児から預けたい、あるいは育児休業からフルタイムで復職するためには2年もブランクを空けたくないという理由である。

スウェーデンの育児休業は皆が取得するものであるから、2年のブランクがあっても横並びとなる。また、母親・父親がそれぞれ取得しなければ認められない育児休業期間があるので、両親で取得しやすいという条件もある。つまり、スウェーデンに学ぶ待機児童の解決法とは、0歳保育を無くしてしまえるだけの育児休業所得補償の実施と、両親ともに取得させる条件付けである。男性が育児休業を取得するのは、現時点ではパイロットケースの感を否めない。両親ともに取得するようになれば、職場環境としても本腰を入れてワーク・ライフ・バランスを考えざるを得ない。

両親ともに育児休業を取得させるなんてスウェーデンはなんて男女平等なんだ、と思われるかもしれない。余談になるが、父親が育児休業を取得する時期を調べると、サッカーやアイスホッケーのシーズンに集中する、なんて調査結果もあるようだ。自省もかねて、男って奴は...

育児休業所得補償をスウェーデン並みの80%にする原資はどこにあるのか?現在の0歳児保育にかかる費用は月額30~50万円程度である。9人定員の0歳クラスならば、月額300~400万円前後はかけている計算で、それを所得補償の上乗せ分に換算すれば5倍以上の人数つまり40~50人程度の原資になる。この解決法は1歳児に拡大しても十分に通用する。3歳以上になると、定員数が飛躍的に拡大するのと、幼稚園という別の選択肢も存在するため、待機児童自体がほとんどいなくなる。