保育料を引き上げる理由(1)

 

2011年9月から半年にわたって「川崎市保育サービス利用のあり方検討委員会」に財政と社会保障の学識経験者として参加してきた。その報告書は要旨をつけて12月12日に記者クラブに配付された。

「保育サービス利用における受益と負担の適正化の検討の方向性について」[PDF]

それを受けて神奈川新聞が掲載した記事が、これだ。

市の認可保育所保育料、14年ぶり引き上げへ 最大1万4千円程度/川崎(2011年12月13日)

川崎市は12日、認可保育所の保育料(保護者負担額)を14年ぶりに見直し、2012年4月から現行より引き上げる方向で検討していることを明らかにした。同市では、国の基準保育料額の平均66・4%を保護者負担額とし、残りの33・6%を市が負担している。見直しにより、保護者負担の割合を75%程度まで引き上げるとしている。
市こども本部によると、市の人口増加とともに、就学前児童が今後もしばらく増加すると予測。さらに認可保育所の整備や多様な保育サービスの実施に伴い、保育料を引き上げる必要があるとしている。
10年度の保護者負担割合は、全国の政令指定都市19市平均が69・44%で、川崎市は4番目に低かった。学識経験者や保育所運営者、保護者らでつくる「市保育サービス利用のあり方検討委員会」は今年9月から11月までの議論で、保護者負担割合を75%程度まで引き上げるほか、低所得者層や中間層に配慮することなどを提言。これを受けて、市が保育料改定の検討を進めている。
市は所得額などによって26階層に分けて保育料を定めている。階層によって改定幅は異なるが、率で最大20%程度、金額では最大1万4千円程度の改定となる見通し。所属世帯が最も多い「D11区分」(所得税11万2500円以上16万2500円未満)でみると、3歳未満の基本保育料(月額)が、現行の4万900円から、見直し案のシミュレーションでは4万7700円になるという。
12日に開かれた市議会市民委員会では、委員から「階層間の差額が均衡ではない」といった意見も出された。
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1112130005/

行政の理屈で報道発表資料を作るものだから、記者の方もいまいち要領を得ない記事を書いてしまったというところだろう。例えば、保育料自体は国の基準額表が毎年のように改訂されるので、しばしば引き上げられている。では、14年ぶりとはどういう意味だろうか?所得水準に対する保育料ではなく、国の基準保育料に対する減免率を変更して結果的に引き上げるというのが14年ぶりだ。それが66.4%→75%という数字だ。でも、この数字が当てはまる人は平均のど真ん中にいる人だけで、それ以外の大多数はこの数字が当てはまらない。行政の財政計算上の数字だからだ。

数回にわたって、川崎市の保育料がどのように引き上げられるのか?なぜ保育料を引き上げなければならないのか?、そして川崎市での議論の経過と待機児童に悩む他の都市への影響について書き連ねてみようと思う。ポイントは、この保育料が適用になる認可保育所利用者と他者との公平性確保である。他者には、認可外保育所利用者、保育園ではなく幼稚園の利用者、それ以外に市民税を負担している市民、さらには保育所運営経費の増加によって圧迫されている他の予算削減によって仕事を失っている人々と対象はスケールを拡大していく。