待機児童解消のマイルストーン(3)

保育士の処遇改善を巡って
保育所に働く保育士の給料が安いので集まらない、保育所を増やそうにも低待遇なので保育士が確保できずに増やせない、といった報道を見かけます。実は保育士の給料が高すぎたから低く誘導してきたという話をすると驚くでしょうか。
1990年代末、待機児童対策で市町村直営の認可保育所を増やそうとしても、公務員保育士の人件費が高くて増やせないという議論が巻き起こりました。公務員は年功序列賃金なのでベテラン保育士ほど年収が高くなります。民間の参入を増やせば、投じる予算は同じでも低い人件費でより多くの定員を整備できるという提案が支持されました。1999年に政府の経済戦略会議が答申を出し、民間活用として株式会社の参入が認められました。

経済学者は「保育バウチャー」を導入するよう勧めました。保育園に運営費丸ごと支給する機関補助だと予算を効率的に使う動機が生まれません。利用者が保育園を選び、預かる子どもの人数が増えるほど支給される運営費収入が増える人頭払い補助の方が予算を効率的に使えるようになると期待するからです。経済学者は人頭払い補助があれば、新たな参入によって需要と供給がマッチングできると考えました。

株式会社が参入し新たな保育所が増えても、定員を大幅に超えて子どもを預かることはできません。保育の最低基準として施設及び職員配置の基準が定められていて、面積や職員数が上限を決めてしまうからです。そこで事業継続のために利益を出そうと思えば、人件費を節約するしかありません。

つまり、待機児童対策として投じられた予算を最大限に活用して保育所定員を増やすには、保育士の給料を下げることが暗黙の条件だったのです。それが今、保育士の処遇改善こそが保育所を増やすために必要だと主張されるようになり、時代の流れが変わったと言えます。東京都の家賃補助や処遇改善費がついた新卒保育士の初任給などは、新卒会社員と比べても劣らない水準まで改善されていますが、既に待遇の良い方は自分ではふれまわらないものです。