東野圭吾『真夏の方程式』


★★★★★
作家生活25周年特別刊行3部作の第2作目、読んだのは最期だが。東野圭吾『真夏の方程式』読了。探偵ガリレオシリーズ長編としては3作目である。

『麒麟の翼』でも感じたことだが、隠した過去がある登場人物の心理描写が不自然というか、あえて過去に触れない、動揺を描かない、といったところが読後感としてはすっきりしないところ。

本作に関しては、なぜ恭介少年が登場する必要があったのか、最終章まで伏線として残される。中盤で、湯川が今後の人生を左右しかねないと影響を懸念する相手がいると捜査陣に示唆するが、てっきり成美のことだと思い込んで読み進めていたことは、作家の術中にはまったと悔しさが残る。これもまたミステリーの楽しみなのだが。

事件の現場となる「玻璃ヶ浦」は、読み進めているうちに伊豆半島かな、それとも駿河湾のどこかなのかな、と想像を膨らませていた。大阪から恭介の父親が新幹線で駆けつけるくらいだから、当たらずとも遠からずか。でもお昼前に到着するために早朝の新幹線に乗らなければならないという描写を見ると、東伊豆や伊東あたりなのかもしれない。まさに海底探査が行われていて、レアメタルやらメタンハイドレートの採掘が将来構想に入っている地域だ。

余談だが、そこで思い出すのが東伊豆町長の逮捕事件だ。あるプロジェクトで当時の町長と会食する機会があり、宿代自己負担8千円だったのに、それどころではない質・量の海の幸が並んだのに驚いた記憶がある。その数ヶ月後、公共工事絡みで公文書偽造が発覚して逮捕され、町長を辞職することになった。新しい取り組みに柔軟な姿勢を見せる首長さんの一人だっただけに、残念な思いをしたものだ。