マイナンバーと子ども手当未申請

マイナンバーが導入されていれば、子ども手当未申請なんて起こらない

ここに今日の2つのニュースがある。社会保障の観点では同じカテゴリの記事なのだが、独立して扱われている。マイナンバーは内閣官房がニュースソース、子ども手当は厚労省がニュースソースだが、体系的な観点を持ったデスクがいれば関連づけた特集が組めるはず。

朝日新聞「国民に番号「マイナンバー」法案閣議決定 国会に提出」

野田政権は14日、税金と社会保障の個人情報を一つにまとめる「共通番号制度法案」(マイナンバー法案)を閣議決定し、国会に提出した。消費増税をした時に低所得者向けの現金給付などに使われる見通しだ。ただ、消費増税の与野党協議が進んでいないため、国会審議に入れるかは見えていない。
政府は国民に番号をつけることで、個人の所得や介護・医療などの社会保障の情報を一元管理しようとしている。法案が成立すれば、2014年秋から、日本に暮らす個人と企業に番号が割りふられる。15年1月からICチップ付きカードが配られる予定だ。(後略)
http://www.asahi.com/politics/update/0214/TKY201202140171.html

朝日新聞「子ども手当申請「まだ」1割 厚労省推計」

昨年10月分以降の子ども手当を受け取るための申請について、厚生労働省は14日、対象世帯の約1割がまだ手続きしていない可能性がある、との推計結果を公表した。支給要件の変更に伴い、対象の全世帯で3月末までに申請が必要。厚労省は「対象の1560万人の子どものうち、百数十万人が手当を受け取れなくなる恐れがある」と、注意を呼びかけている。(後略)
http://www.asahi.com/national/update/0214/TKY201202140472.html

マイナンバーは、「税と社会保障の共通番号」の愛称としてつけられた名称だ。中身としては、いわゆる納税者番号としての機能、社会保障に関わる医療・介護・年金・その他手当給付関連の機能が予定されている。特に将来の消費税増税で、逆進性と呼ばれる低所得者の相対的負担が重くなる現象を緩和するために、このマイナンバーを使って現金還付してやろうという構想が、2011年6月にとりまとめられた「税と社会保障一体改革成案」に書き込まれていた。逆進性緩和には、食料品を軽減税率適用にする方法もあるが、リスト管理が面倒なので否定されている。食料品でも贅沢品はどうするんだ、ハンバーガーを持ち帰るなら食料品・店内で食べるならレストランサービスで異なる税率、なんてことが海外の軽減税率導入国では起こっているからだ。

さて、このマイナンバーに関しては、昨年『三田評論2011年8・9月合併号』にResearcher’s Eyeというコラムで書かせてもらった。Facebookのウォール写真に転載しているのがあるので興味があれば読んで欲しい。
たまたま、大学院ゼミで1年先輩が国税庁キャリアになっていて、このマイナンバーを内閣官房でとりまとめる役を担っていた。国会提出までこぎつけたことは改めてお祝いしたい。結局のところ、納税者番号にしても反対するのは所得が完全に捕捉されると困る人々なんであって、プライバシー侵害だとか、国家管理の強化だとかは言い訳に過ぎない。同時に導入しようとしているネット上のマイポータルで個人情報へのアクセス履歴が確認できるという予定もあるので、確認手段ができるだけましになるはずだ。

所得捕捉と、今回の子ども手当未申請は関連している。所得による給付制限が決まっているため、課税基準額を参照するために申込みが必要になったのだ。もっと言えば、菅政権末期に法案を通すバーターとして子ども手当を減額する与野党合意をむすんだことが始まりなのだが。マイナンバーが導入されていれば、機械的に子ども手当受給資格を持つ人をピックアップした上で給付通知を送りつけることが可能になる。オプトイン型の給付通知で、いらないという人は連絡すれば止めてもらえる。子ども手当を出したくないけど仕方なくやるんであれば、オプトアウト型の給付通知も可能だ。今回の子ども手当を申請した人のみに給付するのはまさにそんなやり方だった。マイナンバーが導入されていれば、子ども手当未申請なんて起こらなかったのだ。

政府の検討会が、マイナンバーでどんな活用方法ができるか、諸外国の事例をいくつも収集してきている。たとえば、ある国では病院から役所に出生証明が出されると、政府に予め登録してある銀行口座に出産手当と毎月の家族手当が振り込まれるようになる、といった例が紹介されている。申請手続きは簡略化され、ペーパーレスが徹底されるようになることが理想だ。その観点でも、子ども手当受給に申請を必要としたやり方は、市町村の事務コストの面でも大きな無駄だったと言わざるを得ない。

未申請の1割は、どんな家庭なのだろうか。高額所得の世帯で、うちは子ども手当なんていらない、という家庭なのだろうか。それとも役所から届く手紙なんて見てもいない、日々の生活に忙殺されていて、ニュースなどにも関心を持たない家庭なのだろうか。プロフィールは明らかにされていないが、そのあたりも関心を持つところだ。