公的年金の世代格差を考える

話題になっている厚労省の「いっしょに検証!公的年金:世代間格差の正体~若者って本当に損なの?」について、社会保障専門家としてちょっとコメントしてみます。

どの国でも所得(資産)格差が大きい世代というのは高齢者世代で、再分配によって格差是正が必要になります。そうしなければ老人は飢え死にする国、そもそも老人に至る前に寿命の来る国、そして格差によって治安が悪化する国があります。誰かが支えなければならないわけです。

日本であれば、年金で支えるのか、それとも生活保護なのか?という選択になっています。厚生年金の最高額や企業年金をあわせてもらっている方々にまで基礎年金部分の半分に税金を使うべきかは議論のあるところです。さらに、使い切れずに残してしまう人もいるので、相続税が強化されていたりします。

今の年金受給世代が働き盛りだった頃、まだまだ社会インフラが不十分だったのは確かで、今の現役世代がそのインフラを享受しているのは事実です。それを年金世代格差にどれだけ反映させるべきかは議論の余地があります。

8,9枚目の産めよ増やせよ的なメッセージは強烈な誘導に見えるかもしれませんが、実は各種調査で欲しい子どもの数は2~3人という結果が出ていて、それが実際には1~2人になっているということを厚労省は認識しています。国民の願いを実現させる、そのための待機児童対策だったりするわけです。

余談ですが、社会保障の専門家の間ではここ20年くらいの研究で、(現役世代が高齢者世代を扶養する)賦課方式の年金制度を持つ国では少子化が進むとの共通認識があります。年金によって社会的扶養を受けられるならば、他人の子どもが自分の年金を支えてくれるからです。逆説的ながら、もし年金制度がなくなって私的扶養の世界に戻ったとしたら自分の子どもに支えてもらう必要があるので、出生率は急回復することでしょう。