惜しいAERA dot.記事「保育士の給料~」

保育所運営事業者の決算データから保育士の人件費比率が低い事業者を見つけ出し、リアクション回答を得た上で実名公表した調査報道が公開されました。とても意欲的な試みながら、学識者の監修を受ければもっと実像に迫れたろうにと惜しい気持ちでいます。

保育士の“給料”が低い21保育園を実名公表 全国平均以下の年収275万… 派遣大手の施設も

例えば、給食を直営なのか委託なのかは人件費に大きな影響を与えます。今回の記事の着眼点は人件費比率なので分子に人件費、分母に運営委託費が来ます。給食を業務委託すると分母は変わらないのに、人件費が小さく見えてしまいます。地方自治体の財政を考えるときも、指定管理者などの外注をすると人件費を圧縮する手法が用いられています。企業でも派遣社員は人件費に含めません。

個別回答で、グローバルキッズ飯田橋園が千代田区の手厚い家賃補助のおかげで人件費比率が低く見えてしまっていると回答しています。私はこの園を視察見学したことがあります。ワンフロアを屋内園庭に作り替えた素晴らしい施設でした。通常の要件では求められない広さの施設にも手厚い家賃補助をしてくれる千代田区の度量に感服した覚えがあります。つまり分子の人件費は同じでも分母が大きくなり、比率が下がっている訳です。

一般的に大規模な定員(100人以上)と比較的小さな定員(40人前後)や小規模保育所(19人乳児まで)では人件費比率が変わります。大規模なほど人件費比率が低く、小規模なほど高くなります。設備充実の大規模園は人件費比率が低く、園庭もない小規模保育所の人件費比率が高いとき、小規模保育所が良いと評価できるでしょうか?

この調査報道で用いられたデータは2015年の東京都分です。多くの区で待機児童対策に躍起になっている時期です(今も継続してます)。これらの事業者が人件費を節約した資金を流用して新設保育所の提案をしなかったとしたら、現在よりももっとひどい待機児童数となり、多くの乳幼児の保護者がキャリア継続を断念していたでしょう。そもそも民間参入とは低コスト化と定員拡大を目指した施策なのです。

東京都ですから、家賃補助を組み入れると最大8万円程度の手当が毎月のせられています。保育士自身もいくらでも条件の良い保育所に移籍する自由があります。東京都くらいしか、事業者の保育所運営のみの決算データを提出させていません。例えば、同じ株式会社で違う事業も同時にやっていると、本部機能はどちらの事業にも関わっているのが一般的です。保育所運営のみを切り出すのはよほど意識していないと正確には出せません。

最後に、日本は保育所不足と子ども不足が同時に発生している、といういつものフレーズを繰り替えさせてもらいます。本当に保育士の給料が低いのは東京都ではなく、最低賃金も低く子どもが集まらない地方の保育士なのです。