幼児教育の無償化と「保育崩壊」懸念

2017年総選挙の与党公約は、消費税増税とそれを財源にした教育の無償化でした。幼児教育・保育の無償化と高等教育の無償化(所得制限付き)の二本立てで、2019年10月に3歳以上の保育料(幼保・認定こども園含む)が無償化されます。これに伴って、待機児童解消に取り組んできた都市部自治体から「保育崩壊」が起こるのではないか?と懸念が示されています。

内閣府から2018年7月30日付けで「幼児教育の無償化について」という子ども・子育て会議資料が公表されています。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kodomo_kosodate/k_36/pdf/s2-2.pdf

内閣府資料は次の点が強調されています。

  • 保育の受け皿拡大を図りつつ、幼児教育の無償化をはじめとする負担軽減措置を講じることは、重要な少子化対策の一つである
  • 幼児期は、能力開発、身体育成、人格の形成、情操と道徳心の涵養にとって極めて大切な時期である
  • 諸外国においても、3歳~5歳児の幼児教育について、所得制限を設けずに無償化が進められている
  • 3歳から5歳までの全ての子供たちの幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化する
  • 保育の必要性があると認定された子供であって、認可保育所や認定こども園を利用できていない者については、認可外保育施設の無償化対象に含める
  • 但し、保護者から実費徴収している通園送迎費、食材寮費、行事費などの経費は無償化から除外することを原則にする

これに対して、全国市長会は幼児教育・保育の無償化に対して不安を表明しています(松本武洋・和光市長にFBで教えていただきました)。


幼児教育の無償化については、制度設計がまだはっきりしておらず、どういう段取りでどうやってやったらいいのか、市長会の中で大変不安がある。また、財源については、我々は消費税増税でその3割が地方に来るということで賛成してきたもので、その3割の地方の割分からは幼児教育無償化の財源が持っていかれることのないようお願いしたい。さらに、無認可保育所もこの対象にしてしまうと、相当レベルが落ちるということを懸念している人たちもいるので、レベルを落とすことのないようにしっかりと制度設計していただきたい

http://www.mayors.or.jp/p_kyouginoba/2018/10/301015kunichihou-kyouginoba.php

少し解説すると、来年度途中から始まるのであれば国・地方ともに来年度予算に組み入れて準備する必要があるのに、制度設計がどうなっているか明文化されて周知されていません。所管の内閣府でも急ピッチで策定している最中で、私が関係している自治体からは前保育課長が内閣府に作業チームとして出向しています。政治案件なので、行政は振り回されているという印象を受けます。その中で、地方の財源負担も示されておらず、国が一方的に決定した施策でありながら、地方に負担がつけ回される心配があります。待機児童解消のために自治体が取り組んでいるこれまでの努力も多くを地方自治体の独自負担で実現してきました。

無認可保育所(認可外保育施設)についても無償化するのは、都市部の認可保育所を保留になった利用者がいることが最大の理由です。例えば、東京都認証保育所は東京都の補助金が入っていますが、制度上は認可外保育施設になっています。横浜市、川崎市も同様の認可外保育施設に補助金を投入しています。ところが、認可外保育施設というのは認可保育所基準に満たないすべての保育施設を含んで範囲が広いものです。

認可保育所の基準は多岐にわたりますが、主なものとしては職員配置基準・施設基準があります。例えば0歳児3人につき有資格保育士1名とか、園児1人あたりの面積、二方向避難経路確保などがその内容です。認可外保育施設の中には、有資格の職員が足りなかったり、面積が基準を満たしていなかったり、といった施設も含まれています。現時点では届出のみでオープン出来ます。今回の無償化では指導監督の基準を満たすものが対象とされていますが、5年間の猶予期間が設けられています。悲観的な見方をすると、5年間は「野放し」になる恐れがあります。

「保育崩壊」の懸念とは、待機児童解消のマイルストーン(6)でも書いたように都市部の自治体ではまだまだ待機児童解消のために保育所を増やす努力をしている状況で、「タダの怖さ」つまり保育料無償化なら子どもを預けたい!という利用者で保育需要が急増する、そして認可・認可外問わず保育施設が子どもであふれて保育士が疲弊する、という懸念です。都市部だけの話ではなく、職業紹介会社が子ども不足の地域から保育士を根こそぎ連れ出してしまうため、全国どこでも保育士不足に拍車がかかる恐れがあります。

個人的な意見は3点にまとめました。

  • 2019年10月は準備不足なので2020年4月に延期する
  • 認可外保育施設については自治体に裁量権を持たせる
  • 国策として決めたことなので、地方に財政負担つけ回さない