幼児教育無償化のその先

2019年10月からの3歳以上の幼児教育・保育にかかる保育料無償化が実施されます。これは2017年総選挙の与党公約であり、消費税増税とセットになったものです。その先にあるかもしれない「保育崩壊」について取り上げてみます。

都市部の自治体では待機児童解消を目指して保育所増設を進めている最中なので、「タダなら利用したい」保育需要が急増して、整備計画が破綻する恐れがあります。もう一つは、少子化の進行している地域の幼児教育・保育施設間の生き残り競争が激化することで、幼児教育の質が確保できるのか?という懸念があります。

筆者が委員を務める川崎市保育事業者等選定委員会は、保育所整備目標が達成できなかったとしても運営継続の前提となる財政基盤や保育の質に問題のある事業者からの保育所開設申請には毅然と対応してきた経緯があります。一度開設してから指導監督するのは当然なのですが、利用する子どもたちのことを考えれば最低限の基準をクリアできていない事業者は門前払いするのが適切だと考えます。

ところが、幼児教育の無償化対象に認可外保育施設も含まれています。しかも5年以内に認可並みの基準を満たすよう猶予期間が設けられています。つまり、認可外保育所は現状そのままで保育料無償化になるのです。これまで運営費が入っている認可保育所に比べて、認可外保育施設の保育料は割高でした。認可保育所の保育料は所得に応じた減免があるのに対して、認可外保育施設の保育料は利用した時間に応じた応益負担だったからです。言い換えると、保育料が高いので選ばなかった層まで認可外保育施設を選択する可能性があります。

認可外保育施設の職員配置や設備は千差万別です。ほぼ認可保育所の基準通りのところもあれば、有資格者がまったくいない施設まで幅広く分布しています。猶予期間が終了した5年後の姿として、理想としては地方自治体も指導監督体制を整え、認可外保育施設も職員配置や設備を認可保育所同等にまで高めることが期待されます。しかし、このまま少子化が進行すれば、認可外保育施設の収容定員はそのままいらない!となるかもしれません。よほどの差別化をしないと利用者の選択肢に残らないかもしれません。

幼稚園、認可保育所、認定こども園の子どもの獲得競争も激化していることでしょう。その過程で、情報の非対称性が生まれるかもしれません。関係者や学識者で共有されている「質の高い幼児教育・保育」と、利用者が目を奪われる「なんとなく子どもに良さそうな早期教育」が違っているからです。

筆者は幼児教育の専門家ではありませんが、門前の小僧状態で専門家の先生方から教わることが多々ありました。例えば、モンテッソーリ教育とリトミックや英会話レッスンを同時に標榜している民間認可保育所などが散見されます。イベントカレンダーも盛りだくさんなのに、子どもの自立性や自発性がどうやって開発されるのでしょうか。洗剤の禁忌ではありませんが、「混ぜるな危険!」です。保護者受けする幼児教育・保育を宣伝する施設ばかりが生き残るようでは、まさに「保育崩壊」してしまいます。